小さな島の物語〜空と炎の少女たち1〜

宇治文香

 小さな島がありました。船がやってくることなど、滅多にありません。その小さな島の隣には、同じような島がもう一つありました。ふたつの島は小さな木の橋で繋がっていました。
 それぞれの島にはひとりずつ小さな女の子が住んでいました。
 とても仲良しで、朝から夕方までよく遊んでいました。夜になると、髪の長い女の子は自分の島の洞窟に、短い方の女の子は自分の島の木の上に帰って眠るのです。
 ある日のことです。
「ねえ、筏を作ってみようよ」
 うん、ともうひとりも言ったので、ふたりで海岸沿いをてくてく歩きました。
 歩いて歩いていると、大きな流木が落ちていました。てってってと、髪の長い子が走っていって、指で木をつつきます。
「どお?空ちゃん」
 おかっぱの女の子が訊くと、大きな声で答えました。「大丈夫だよ。使えそうだよ」
 追いついてきた、おかっぱの女の子は、よいしょと言って、木を担ぎます。
「大丈夫?炎ちゃん」
 おかっぱの女の子は、うんと言いました。
「次のを探してよ。後からついていくからさ」
 空ちゃんは少しだけ、大きな木を見ていましたが、思い切ったように走り始めました。炎ちゃんは長い髪の毛が見えなくなってから、ほうと息を吐きました。どうやら、少し、重いようです。
 空ちゃんは流木を掘り出したり、少し泳いで取ってきたりしました。炎ちゃんは、潮が満ちても流されないところまで、木を運びました。
「見て見て、炎ちゃん」
 空ちゃんの言葉を聞き、おかっぱの女の子がゆっくり歩いてきます。「どうしたの」
「あのね、ほら。丈夫そうなロープが流れてきてるよ」
 それは、大きな発見でした。炎ちゃんはにまーと笑いました。空ちゃんも一緒に笑っています。
「よかったじゃん。失くすと嫌だから、空ちゃん持っててよ」
 空ちゃんは、少し迷ってから頷きました。実は、ふたりとも、忘れっぽい性格なのです。
 日のあるうちに、ふたつの島を回って、材料を集めてしまいました。
「空ちゃん、今日完成させてしまう気?」
 炎ちゃんは少し眠そうに言いました。空ちゃんは張り切って、頷きます。
「止めた方がいいよ。明日、朝からすればいいじゃん」
 空ちゃんは聞く耳持ちません。炎ちゃんも本当のところは、今日中に完成させてみたかったのです。炎ちゃんは黙って見ていることにしました。
 空ちゃんは手際悪く、木を並べていきます。
「バカだねー。大きな木と小さな木の組み合わせを考えなくちゃ。沈んじゃうよ」
 炎ちゃんは力強く木を持ち上げて、並べ替えました。
「あー、この細い木はね、さっき拾った布を張って、帆にするの」
 すごく楽しそうに言います。炎ちゃんは呆れて頷きました。
「はいはい。それがいいね」
「なんか、炎ちゃん、投げやりじゃない?」
 炎ちゃんは、適当にロープで木を組んでいきました。空ちゃんは楽しそうに、帆を作っています。
 木が組めたので、炎ちゃんは海に向かって、筏を引きずっていきました。浮かべる前に戻ってきます。
「空ちゃーん。ロープが切れちゃったよお」
 ちょうど、帆ができた所でした。持ち帰られた筏を見てみると、ところどころロープが切れています。
「明日、お昼頃まで、待ってて。ロープ編んどくから」
 炎ちゃんは、泣きそうな顔をして頷きました。空ちゃんは目を見開いて、一生懸命話しているようです。
「そうだね、ロープとか編む仕事、得意だもんね」
 空ちゃんはまたまた、と言って、炎ちゃんの肩を軽く叩きました。
 その晩、空ちゃんはあまり寝ないで、木の繊維を編み込んでいました。炎ちゃんの目にはいつまでも、明るいままの木が見えていました。
 ――次の日。太陽は空の真上にきていました。
 空ちゃんがやってきたときには、炎ちゃんは筏の横で座って、砂に絵を描いていました。
「ごめんっ。待った?」
 手を合わせて謝ります。炎ちゃんはぷうっと頬を膨らませました。「待った。いつまで待たせる気だったの」
 ほんの冗談です。空ちゃんはとても困っているようでした。
「まったく、もう。ただの冗談だよ」
 空ちゃんはびっくりしたーと言いながら、ロープを取り出しました。すごく丁寧に編まれたロープで、炎ちゃんは感心しました。でも、そんなことはけっして口には出しません。そういう性分なのです。
 簡単に筏が組み上がりました。空ちゃんが帆を付けて出来上がりです。炎ちゃんが組んでいる間、空ちゃんはじっと屈んで見ていたのですが、炎ちゃんは仕事が終わると家に帰ってしまいました。
「よーし、海に浮かべてみよう」
 空ちゃんは意気揚々と、海にざぶざぶ入っていきます。炎ちゃんは、ちょっと待って、と小声で言いましたが、空ちゃんには聞こえていないようでした。「まったく、耳悪いんだから」
 炎ちゃんは海に背を向けて、何やら、していました。それから、小走りに海に向かっていきました。
「あれ?筏は?」
 はてなマークを頭の上にたくさん浮かばせて、空ちゃんが言います。炎ちゃんの肩の向こうに、ひっくり返った筏が見えました。「まあっ!たいへん」
 走って、筏の方に戻ります。後から、ゆっくり炎ちゃんがついていきました。
「まあ、なんてこと。炎ちゃん」
 炎ちゃんは、こみ上げる笑いを我慢して、言いました。
「アスファルトを塗ったんだ。今朝、取ってきたばかりだから、乾くのに小一時間掛かるけど、完全に乾くと浸水しないよ」
 空ちゃんはパンっと手を叩きました。
「さっすがぁ、炎ちゃん」
 それから、ふたりは水遊びをしました。
 少女たちは、すごく楽しそうでした。
 島の時間はゆっくりと過ぎていきます。

<つづく>


 久しぶりに童話を書いてみました。さらっと書けるし、楽しいです。経験が少ないので手直しどこにしたらよいのか分かりません。へたっぴで、ごめんなさい。

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