SHINING BUTTERFLY
宇治文香

光は蠢き、春が訪れる。風は舞い、時は千切れる。

 宇宙で弾け戯れる水のようだった。今まで接してきたものと同じとは思えなかった。不規則に――どことなく規則的に流れる風に舞う。光を身に纏った目に見えない乙女が、歓迎の舞いを舞っている。
 木々に包まれて、世界は淡い緑の光で満ちている。
 すでに放された動物たちは平和そのものだ。船の中では春の存在を否定しきっていた――彼らが、つがいを作っている。 「そんな格好で外に出て、平気なの」
 そんな格好――艦の中で着ている作業服だ。
「艦にいたままで、どんな調査ができる?」
 ヘッドホンの位置を動かしながら言う。
「よく聞こえないわ。もう一度言ってちょうだい」
 数年早く計画に参加しただけ。言い方を変えれば、訓練の時間が長かった――あの女は、なぜ偉そうなのだろう。
「ちょっと、散歩するだけだ」
 探索の結果は上々だ。生物の――動物の気配が少ないが、この星は動物を迎え入れる準備が整っている。植物たちだけの楽園はいつか崩れてしまう。人が入り込んでも恨まれる覚えはない。
「半年は、艦内で過ごすように命じられたはずよ」
 そんなことは知っている。呑気に増え続ける植物のように人類も増えるとでも思ったのだろうか。動物ですら、この環境を必要としているというのに。
「アラン……戻りなさい」
 通信士が言う言葉ではない。アランは聞こえなかったことにした。
 風が乱れている。光たちが恐れている。
……何かが起ころうとしている。
 それとも、何かが起こったのだろうか。
……見に行かなくては。
 木々が騒ぐ。風が駆けた――ただ一点を目指して。天からの光は突如として途絶える。厚い雲は、上空で待っている。
 昼間の蛾のような――鮮やかさを持った蝶が現れる。蝶は巨木の周りを何度か回り、飛び立っていった。
 時折こぼれる粉のような光の、後に花が咲いていく。闇の中で――光のように輝いている。風一つない空間で、草たちが手を振っていた。
 雨はまだ降らない。

 どこまで行っても、草ばかりだ。花もなければ、虫もいない。木の幹の茶色が鮮やかに見えるほどだ。
 視界が暗くなる。ふと、振り仰ぐ。雲が頭の上を追い抜いて、凄まじい勢いで膨らんでいく。
 アランはきびすを返して、駆け始めた。この星に着いて、一週間、一度も降ることのなかった雨だ。どんな成分かも怪しい。
 不安はなかった。地球よりも清らかな水が降ってくる――確信にも似た予感がある。
 突然、ヘッドホンに音が入る。
「アラン、早く戻りなさい」
「うるせー、言われなくても戻るっ」
 耳障りな音がして、通信が途絶える。機嫌を損ねてしまったようだった。
 走っていく青年の後ろで、蝶がちろちろと舞っていた。

 最後に収容したのはアランだった。研究者たちが騒ぎ立てる中、つやつやした唇の女は小さく笑う。
「副艦長っ、今回は無害だったからよいものの、害があったらどうするつもりだったのですか」
「特に何も。戦闘機のパイロットなど、SFでもないのに、必要ありませんもの」
 さらり、と言う。副艦長はアランを弁護したのではなかったのだ。それどころか、必要ない、だと?
「これからも、お散歩に出ていただいてよろしくてよ」
 悪意は感じられない。副艦長は静かに視線をデスクに落とす。机上に山と積まれた書類は、彼女が無能だからではなく――仕事が多いためだ。副艦長など、飾りにすぎないという考えは改める必要があった。
 研究者たちは小さな溜息をつくと、挨拶も程々に、アランを引きずり出した。

……お聞きになられましたか。
 木が言葉で考えている。理不尽なことだ。それほど、人間の言葉は簡潔で使いやすい。
……お姉さまは、聞く必要はないのよ、あんたなんかと違ってね。
 その通りだ。こうして報告をするまでもない。記号化される前の思考が、わたしに通じているのを忘れたのだろうか。
……忘れてはいないけれど、心配なの。通じているのかどうかが分からないから。
 わたしが返事をしないからだろうか。返事をしなければ、通じないというのか。かつて、わたしの体の一部だった、妹たちが。
……ええ。昔と違って、みんな、人に影響されすぎちゃったもの。
 ふと、思いつく。伸びる枝に絡まって悲鳴をあげる四つ足の動物。根から分泌される毒に侵される虫。葉に溶けていく透明な羽。運ばれていく性欲の結晶。甥や姪が息吹く。
「誰だ、わたしに無断で性別を創ったものは」
 初めて発した言葉。気付けば、世界が創造主の手から離れている。気付くのが遅いということはなかった。この星には言葉がなかったから。時間はゆっくりと流れていたから。
……雨はわたしたちに無断で降るようになりましたよ。
「それは知っているっ。そのようなことは大した問題ではないのだ」
 二つの性は時を速める。取り戻せない過去を作っていく。
 巨木の周りに雲が現れた。渦を巻くようにして、広がっていく。丸い星を覆い被さんとする勢いだ。
「答えよ。言葉を得たのであろう」
 雲が放電していた。地上の獲物を求めて、空が怪しく光る。
「わたしに隠し事ができると思うな」
 光が落ちてくる。木々は総毛立ち、異邦者たちはうずくまる。天の鐘が鳴った。甘い香りを放っていた大木は二つに裂けた。生気に溢れていた木は、焼け焦げ、見る影もなくなった。
……姉さん、火が出ます。
「ああ。放っておけ。護のない森など、そう長くは保たぬ」
 時が早まるだけだ。一度生まれた性別を消すことはできないだろう。
……思ったより、早くなってしまったようだな。
 努めて、人の言葉を使う。時はもう、待たない。

時のおもては川面のように輝いていた。

「わたしが考えることではないのですけれど」
 穏やかそうな笑みを浮かべる。
「アマノ・ノリコ通信士、艦長に必要な能力は何だと思いますか」
 唐突に聞かれる。ノリコは答えに窮して首の後ろを掻いた。
「ん……と、統率力と判断力それに忍耐力ですか……」
 ペン立てにボールペンを差し込み、両腕を机の上に投げ出す。
「では、パイロットに必要な能力は」
「命令を着実にこなす力です」
 副艦長は小さく笑いなおす。
「艦長に必要な力は、儀式をこなす力と人当たりのよい外見。パイロットに必要な力は不確定要素を打ち消す力」
 通信士がパイロットを蔑むとき以上のものがある。
「短期間の同居には統率など必要ありませんから。ぼろが出ない程度にまとまっていれば、後から追加が来ます」
「つまり、地球に必要のない人物を、置いていくと?」
 副艦長は怒ったような顔をした。視線を逸らすと、遠くを見るような目をして、呟く。
「戦闘機乗りと見目の良い人間など、掃いて捨てるほどいますから」
 微笑むと、姿勢を正した。ボールペンを引き抜き、書類を読み始める。
 一礼すると、ドアを静かに開ける。ペンの音が止まって、ノリコを呼び止めた。
「出ていくことは許しません。通信士はあなたしかいないのですよ」
 不思議な力が沸いてくる。今まで感じていた理不尽な不満が嘘のように晴れる。これが本物の統率力かもしれない。

 鱗粉を撒き散らし、蝶が飛んでいる。雲行きは怪しかったが、誘われるまま進む。暗い森の道で、蝶だけが輝いて見えた。
……降るなよ、降るなよ。
 いい研究材料になるはずだ。この星で動物に遭遇するのは初めてだ。雨が降って、弱ってもらっては困る。
 蝶は急に上昇する。行く先を見上げ、息を飲んだ。
 人が立っている。雲間から漏れる光がスポットライトのように照っていた。深緑の髪に、青白いほど透明な肌。澄んだ青空のような瞳。唇は、甘い言葉を囁くように動いている。
 普通ならば――正常な状態ならば気付いたはずだ。こんな所に人間がいるはずがない、と。だが、判断するより早く……
 少女は枝から落ちた。考えている暇はない。落下地点に腕が吸い寄せられていく。数拍後には、腕の中に細い身体が収まっていた。今気が付いたのだが、少女は古代人が着るような白い服を着ていた。胸元の赤い石が皮膚に付いたばかりの血のようにぬたり、とした印象を与える。
 唇が震えるように動いて、何事か呟いている。
「おい、大丈夫か」
 少女は薄く、瞼を開けた。天の色のような目が、眩しい。
 目を瞬く間に、少女は掻き消えてしまう。
 夢のような出来事は全て失われていた。立ちこめていた暗雲も嘘のように消え、巨木すら見当たらない。輝く蝶も、ましてや少女の姿など、どこにもなかった。
 アランは特に疑問も感じなかった。ただの夢か妄想だろう――他人にはよくあることらしい。
 後には少女の目の色をした空が残る。

 地球から、艦隊がやってくる時期だ。各艦には女性乗組員が多いそうだ、と艦長が珍しく戯けて言った。無線機で散り散りになったパイロットたちを呼び戻す。
 アランはひとり、浮いているかもしれない。いや、皆が浮かれていて、アランだけがいつも通りなのか。アランの見た夢は男たちの痴話の中で薄れて忘れられた。
 偶然、森が一つ全焼する事件があった。焼けた原は今、木の家が組まれている。今度来る艦には既製住宅が大量に用意されているはずだ。
 野菜や果物も運ばれてくるだろう。久しぶりに、缶詰や乾燥食品から解放されると思うと、嬉しい限りである。
 艦長より艦長らしいことを考えながら、先日の少女のことを思い起こしていた。

星の意思に願いをかけて、願いが言葉を失うまで祈り続ける。

 夢とは、叶うものである。
 この星には肉食獣がいない。どこで野宿をしても平気だ。  アランは木の根を枕に昼寝をしたつもりだった。胸には何度となく読んだ単行本が乗せてある。いつも通り麗らかな午後。
 だが、目を開けると陰りかけた太陽に影を長くした少女がいた。木の根は少女の腿に変わっている。アランは驚いて、声を挙げようとする。だが、口が金魚のようにぱくぱくと動くだけだ。
 少女の顔はちょうど単行本で隠されている。少女は本を閉じながら、わずかに身体を動かした。
 急いで起きあがる。
 少女は声を出さずに笑った。
「君は……」
 君は誰、などという愚問はやめる。夢の中だ。常識は通用しない。
「あなたは誰?どこから来たの」
 アランはふっと笑う。少女は一瞬、怯えたような目を見せた。
「アラン・ペトリ。地球のフランスという国から来たんだ」
 少し、ぎこちない笑みを見せて、少女は首を傾げる。
「アラン・ペトリ。ちきゅう……ふらんす」
 名前の発音が綺麗だった。小さな子供のようなぎこちなさがある。頭を撫でて誉めてやりたいところだが、怯えられそうなのでやめておく。
「……地球のフランス」
 アランは頷いた。少女は恥ずかしそうに俯いて、微笑む。空色の瞳に吸い込まれそうだ。
「君は誰」
 やはり、聞いてみる。少女は目を見開いて、アランを見上げた。
「名前、ないの。ごめんなさい」
 心底すまなそうに言う。
「別に謝らなくてもいいよ。じゃあ、どこから来たの」
 少女は立ち上がり、腕をピンと伸ばした。その先に、巨木が立っていた。生気を抜き取られたような木はそれでも、天に向かって伸びている。
「あの中に、住んでいるの」
 白い手で緑の髪を撫でつける。忙しなく動く手が、かえって震えて見えた。
「そろそろ暗くなるから、お家へ帰りな」
 アランは立ち上がり、少女の頭を撫でた。少女は背筋を震わせて、目を閉じる。地球に連れて帰りたいくらいに可愛い。
「おうち。あの木のこと?」
 頷くと、単行本を拾う。じゃあ、と言いながら、手を振る。
 少女はとびきりの笑顔を見せた。
 アランは逃げるように歩き始める。  木々の合間に背中が消えてしまうまで、少女は手を振り続けていた。  やがて、指の間から光の粉がこぼれ始める。少女の足は花で埋まり、花になった。最後に残った空色の瞳も、夕焼けに溶けていく。
 輝く鱗粉を身に纏い、少女は飛び立っていった。すっかり年老いた住処に。

朝でもなく夜でもなく、紫色の空。限りなく白い緑。

 宇宙移住艦ポンパドール・アフロディーテ・ホーラー・ヴェスプッチ。どれかの艦長になれという。ノリコは血の気の失せた顔で、大尉の部屋から出た。
 向かい側の扉から、微笑の美女が現れる。この柔和な笑みは鋼鉄の冷笑と名付けられていたものと同じものだろうか。
「副艦長」
 呼びかけると、小さな笑みをそのままに、近付いてくる。
「副艦長、ね。とうとうその座を降りるときが来たわ」
 意味を取りかねて、ノリコは首を掻いた。
「ポンパドール号の艦長に命じられたわ」
 嬉しそうに笑っている。あんなにけなした職に就こうというのに、だ。ノリコは頭を下げた。
「おめでとうございます」
 副艦長の目は鋭く輝いていた。頭を上げる頃には、元の笑みに戻っている。
「あなたはどの艦に乗るのかしら」
「……まだ、返事はしていません」
 副艦長時代には見せなかった、深い笑み。波打つ髪が無能の印に見える。
「必ず艦長になられるのよ」
 ノリコは首を振ろうとした。ふと見ると、穏やかな笑みが目に飛び込んでくる。
「はい」
 無意識のうちにそう答えていた。
 ピンヒールの心地よい音を立てながら、副艦長は歩み去った。

全てに終わりがあって、終わりがなく、全てが始まりであって、始まりは遙か遠い。

 ミントのような少し青っぽい爽やかな香りがする。よく梳かれているのか、指が滑らかに吸い込まれていく。深緑色の髪はいつより深く輝いて見えた。
 髪を撫でる度に少女の見せる笑顔が嬉しかった。見る度に柔らかくなっていく表情が毎回、胸を締め付ける。
 相変わらず肌は日に焼けることを知らないようだった。唇に血の気がないのが少し残念だと、アランは思う。
 しかし、紅を落とした女の唇は思うより美しくないものだ。鮮やかな色の唇を望むなら、艦隊にいる女にでも頼めばいくらでも出てくるだろう。
 気がつくと大きな空色の目が輝いている。真剣な目つきに突拍子もないことを考えてしまった。
 夢――妄想なら……などと。
 だが、幻だったらどうする。心地よい空間が全て消えてしまったら。彼女の面が苦痛に歪むと、空間そのものに憎悪されそうな気がした。
 夢なら夢でいい。
 もう少し、長くここにいたい。

 言葉に出さないがひどく反省している。あまり責め立てるのも悪い気がする。
「餌を変えるべきか……。だが、あの男が望む姿をとったのではないのか」
 無言だったが、何を考えているのかがはっきり分かった。性別などがあると、子孫を作ろうと躍起になるものだと思っていたが、そうでもないらしい。
 言葉にすればそんなところだ。まあ、男を弁護するほど女に成りきってしまった証拠だろうが。
「その人間以外の男に会ってくるがいい」
 わたしはまだ若いのかもしれない。この星の危機を救おう、などとしている。
「何だ、不服か」
 空色の目で睨まれているような気がした。
「そうではなくて……。姉様は調べ終わった後、どうするのかな……と、思って」
 決まっている。
「……人を滅ぼすの」
 わたしは答えなかった。恐らく妹の想像していることは正しくない。わたしが星全体を犠牲にしてでも、人を壊滅させるとでも思っているらしいが。
 ただ、変わってもらうだけだ。艦隊とやらがくる前に、わたしの意志を継ぐものを人の中に潜ませ、森と人が共存できるよう、文明を退化させてやる。
「……安心したわ。わたし、よろこんで」
 犠牲になるわ、だと。笑わせる。まあ、わたしの意思を感じたことで、許してやろう。英雄は必要ないのだ。
 澄み渡った青い空から、細い水の糸が幾本も幾本も落ちてきた。

 グレーのきちんとしたオーバースカート。もちろんサイドファスナー。グロスでぬらぬらと輝いている唇と対照的だ。ウィッグか何かなのだろうが、ひどくアレンジされたおさげ風深緑色の髪の毛がきらきら光っている。
 理想を形にしたような美女だった。
 妙に現実味のある形だ、と一瞬思わないでもなかった。
 すうっと、息を吸う。
 唇が細かく震えている感じが……。疑念はどこかに消えてしまった。
 いつの間にか耳に息がかかるほど近付いている。

 翌朝。洪水で森が一つ、消え去っていた。

星の意思は緑色に輝き、澄み渡る空に放たれる。

 相変わらず、緑色の多い星だった。海もほとんど塩分を含んでいないらしい。植物のためにある星なのだ。
 いつかバランスは崩れる。調査の結果、この星の植物は地球のものと類似しているという。まるで昔、地球人がやってきて、種を植えて回ったかのように――地球の植物より植物らしいそうだ。彼らに何より必要なのは動物だ。
 そんなことを考えながら、机に顎を載せた。艦長帽は布製だが、ひどく重い。わざわざプラチナのプレートを張っているのが原因だろう。他の乗組員たちは布製のワッペンだから羨ましい。
「つまんない」
 もごもごと言う。誰も聞いていないので馬鹿らしいと思うが、見てもいないからどうでもいい。背が足りないらしく、肩から上しか机の上に出ない。仕事をするための机でもないようなので大きな部屋の大きな場所取りといった印象だ。
 本当に、何もすることがない。
 ホーラー艦艦長アマノ・ノリコは、溜息をついた。
 緑の星はもう、ぶつかりそうなほど近くにある。不慮の事故でも起きないかと期待してしまう。
「何かんがえてんだか」
 また、溜息が出た。

 輝く艦隊が予定通り、到着した。一分一秒の誤差もない。アマノ・ノリコのつまらない予想は当たったのだ。
「お待ちしておりました」
 元艦長は艦長陣に紳士そのものの様子で語りかける。元部下たちに。
 艦長がただの飾りでしかなかったことを知った彼女たちには予想したような感慨を与えられない。しかし、老人は気付かずに言葉を続ける。あくびを噛み殺すのに苦労した。
 突然――鮮やかな色の蝶があちこちから出現する。草の影から、木々の間から。木漏れ日のように不安定に舞いながら、彼女たちを歓迎している
 かに見えた。
 ほぼ同時、蝶と同じように、暗雲が空に現れる。
「あっ」
 アマノ艦長は小さな歓声を上げた。予想もしないことが次々と起こる。
 ばらばらと降り出した雹のような雨に、蝶たちは地に落ちた。その上を次から次へと雨が襲い掛かる。
 アマノ艦長は女らしい好奇心で触れたこともない蝶に手を伸ばした。
 机の中央に死にかけた蝶を置いた。顎を側に置いてまじまじと見つめる。
 イタリアのステンドガラスのような美麗な色。標本の作り方を知っている人はいるかしら、と思った。
 蝶はまだ生きているようだ。時折、大きな羽根が動く。鱗粉が剥げて薄く緑色に輝いている。
 再び、引き出しに手を伸ばす。二段目だ。一段目には物騒な武器が入っている。
 小さな銀色のドライヤーで、蝶を乾かしてやる。どういう効果があるのか知らないが、きっと、何もないよりましに違いない。  何だか、昔の恋なんてどうでもいいような気がした。

SHINING BUTTERFLY 謳うは星の意志を継ぐ者。


視メ研で一番始めに書いたもの。倍ぐらいに伸ばしてこれ。はじめはど れだけわかりにくい文章だったことか。

もどる

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送